ウイスキーを熟成させるのに使われるシェリー樽について、なぜウイスキーの熟成にシェリー樽が使われるようになったのか、またシェリー樽=スパニッシュオーク(ヨーロピアンオーク)というイメージが実は正しくないことなどを解説していきます。
シェリー樽とウイスキーの歴史
シェリー酒はスペインで造られる酒精強化ワインに分類されるワインの一種です。すごく簡単に説明するとワインにブランデーを加えて度数を上げて腐りにくくしたものになります。酒精強化ワインには他に、ポルトガルのポートワインやマディラワイン、イタリアのマルサラワインなどがあります。
かつてシェリー酒を輸出する際には樽に入れたまま航海を行っていました。スコットランドへの輸出の際も同様に行われており、シェリー酒を取り出した後の空樽は地元の人々に安く売られるようになりました。これは、使用後の樽を持ち帰るよりも安く売ってしまう方が効率が良かったのです。スコットランドの人々も自分達で新しく樽を製造するよりも安く樽を手に入れることができ、こうしてスコットランドにシェリー樽が広まりました。
ウイスキーの熟成にシェリー樽が使用されるようになった主な理由はその香味の豊かさというよりも安さが大きかったと考えられています。実際、1981年にスペイン政府が輸出の規制を変更し樽のまま輸出することが禁止されると、熟成にシェリー樽が使用されることが激減し、代わりにより安く手に入るバーボン樽が主流になりました。
現在ではシェリー樽の香味が重要視されるようになり樽の供給が無くなってしまわないように、ウイスキーの熟成用にわざわざ、シェリーを樽に詰めて出すだけの”シェリー樽”の製造が行われるようになりました。そのため、今日のシェリー樽はもともとの航海に使用されていたようなシェリー樽とは根本的に異なり、樽がウイスキーに与える香味も異なると言われています。
昔ながらのシェリー樽の方がいいという人もいますし、近年のウイスキー用にわざわざ造るシェリー樽の方がいいという人もいます。ただ、昔ながらのシェリー樽を使用したウイスキーは高価になることが多く、その数も今後ますます減っていくと考えられるため、なかなか比較することができないというのが現状になります。
樽での輸出が禁止される1981年以前に樽詰めされたウイスキーを飲む機会があれば、こういった背景を意識しながら飲んでみるのも面白いかもしれません。
シェリー樽=スパニッシュオークは間違い!
シェリー酒の産地はスペインなので、シェリー樽=スパニッシュオーク樽であると覚えている人もいるかと思いますが、実は間違いです。
シェリーの製造に使用される樽はアメリカンオーク樽であることがほとんどで、ウイスキーの熟成に使用されるシェリー樽はスパニッシュオーク/ヨーロピアンオーク樽であることがほとんどです。
詳しく説明します。
シェリーの製造過程では空き樽はできない!
シェリー酒は主に、以下の図のようなソレラシステムという方法で製造されます。
一番下の段から原酒の25~30%をボトリングすると、一つ上の段から同じだけ補給し、補給に使用した樽はさらに一つ上の樽から補給するという方法で継ぎ足し継ぎ足しで製造していき、一番上の樽に新しい原酒を足していく、という方法で造られます。
つまり、シェリー酒の製造には同じ樽が常に使い続けられる仕組みになっているため製造全体を通して空き樽ができないようになっています。長いものだと100年以上使い続けられる樽もあるほどです。
では、なぜシェリー樽がウイスキーの熟成に使われるのか。次で説明します。
シェリー樽=運搬用の樽
1981年以前、シェリー酒を船に乗せてスコットランドに輸出する際、ボトリングにあたる部分が昔はビンではなく、樽の容器を使用していました。その時、アメリカンオーク樽ではなく、より安価なヨーロピアンオーク樽が使用されました。運搬用に使用されたヨーロピアンオーク樽は通常、数回若いワインの発酵に使用された後のものだったそうです。
つまり、一口にシェリー樽といっても製造過程で使用されるものはアメリカンオーク樽であり、ウイスキーの熟成に使用されるのはヨーロピアンオーク樽になったわけです。少量ですがソレラシステムに使用されたアメリカンオーク樽をウイスキーの熟成に使用しているところもあるそうです。
ちなみに、前述『シェリー樽とウイスキーの歴史』で説明した、近年行われている”シェリー樽の製造”にはヨーロピアンオークだけでなくアメリカンオーク樽も多く使用されており、アメリカンオークのシェリー樽で熟成したウイスキーも最近では多くなってきています。
また、シェリー酒の製造で使用するオーク樽には長年使われている、いわゆる『枯れた樽』が好ましいため、近年の”シェリー樽の製造”のために『若い樽』に詰められたシェリーは粗く木の香りが強すぎるため、通常はブランデー用に蒸留されるか、シェリービネガーなどに加工されます。
まとめると、シェリーの製造に使用される樽とウイスキーの熟成に使用される樽は全く異なるものであるということです。前者を「ソレラ樽」後者を「シェリー運搬後樽」などと呼べば混乱しなくなるのではないかと思います。(多分広まりませんが)
参考
『Sherry casks in the whisky industry』
『Why Sherry Cask Whiskies are Aged in Spanish Oak But Sherry is Aged in American Oak Casks』
おすすめのシェリー樽熟成のウイスキー
せっかくシェリー樽の話をしたので、シェリー樽で熟成したウイスキーをいくつかおすすめしたいと思います。
グレンドロナック 12年
グレンドロナック蒸溜所は創業当初から100%シェリー樽でウイスキーを熟成している蒸溜所で、まさにシェリー樽熟成のプロです。そんな蒸溜所が手掛ける『グレンドロナック12年』はシェリー系ウイスキー初心者の方に特におすすめで、これぞシェリー熟成のウイスキーといったチョコやレーズンのニュアンスがバランスよく表現されています。
色:赤味がかった深いゴールド
香り:甘く、クリーミーなバニラ、ジンジャー、オータムフルーツ、クルミ、蜜蝋
味:リッチ、クリーミー、シルクのようにスムース。暖かく、リッチなオークとシェリーの甘さ。レーズン、やわらかいフルーツ、スパイス、ナッツ
ザ マッカラン 12年
マッカラン蒸溜所は自社でシェリー樽用の原木の選定から行う徹底ぶりで、シングルモルトのロールスロイスと称えられるほどの最高峰のウイスキーです。『ザ マッカラン12年』はそんなマッカランの最もスタンダードなボトルで、優雅で上品なシェリー感が特徴です。少しお値段が高めなので、シェリー系の入門というよりかは、既にシェリー系を飲んだことのある方の次のステップとしておすすめしたい一本です!
香り:バニラにほのかなジンジャー、ドライフルーツ、シェリーの甘さ
味:濃厚なドライフルーツとシェリー
余韻:トフィーの甘さ、ドライフルーツにウッドスモークとスパイスが感じられる。
グレンファークラス 15年
グレンファークラス蒸溜所は、グレンドロナック蒸溜所と同様に100%シェリー樽で熟成を行っているシェリー樽のプロです。蒸溜は直火蒸溜にこだわっており、直火ならではの力強さとシェリーの甘さが見事に組み合わさっています。しっかりしたフルボディーなお酒が好きな人におすすめです!
色:濃いゴールデンアンバー
香り:複雑で、シェリー、バタースコッチ、微かにドライフルーツ
味:フルボディ―でシェリーの甘さとモルトのニュアンスが見事なバランス
余韻:華やかなシェリーの甘さが長く続く
ボウモア 15年
ボウモア蒸溜所はスコットランドのアイラ島に位置する蒸溜所で、優しいスモーキーな香りが特徴的です。『ボウモア 15年』はバーボン樽で12年間熟成させたあと、シェリー樽で3年間熟成しています。アイラ島のウイスキーの中でもスモーキーな香りが強すぎないため、スモーキー系ウイスキー初心者の方にもおすすめです。
色:赤褐色
香り:ダークチョコレート、レーズン、スモーキー
味:ウッディネス、蜂蜜、しなやかな甘み
余韻:力強くあたたかい、かすかなシェリー
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