このメディアでは、度々「ウイスキーのような蒸溜酒は基本的には瓶内熟成をしない」と書いてきましたが、SNSなどでは
「時間経過で印象が良くなった」
「開栓後、半年ぐらいが一番おいしい」
などの印象を持つ人がいます。
今回は、本当にウイスキーは瓶内熟成しないのかを考察していきたいと思います。先に私の結論を言うと
時間経過の変化を「美味しくなった」と感じれば瓶内熟成しているといえる。逆に「まずくなった」と感じ入れば劣化したといえる。その変化をどちらととらえるかは人による。
つまり、人によっては瓶内熟成を一切感じない人もいるし、とても感じる人もいる。
ただし、完璧に密閉した状態で太陽光を避ければ瓶内熟成は起こらないであろう。
そもそも、ワインや日本酒での瓶内熟成とは
まずは、そもそもワインや日本酒などの醸造酒で起こる瓶内熟成について考えます。
ワインや日本酒などの醸造酒は、原料のブドウやお米、酵母や麹菌、乳酸菌などの様々な生物由来の物質が多く含まれた状態で瓶詰めされます。
これら瓶内のすべての分子がどのように反応しあうのかを網羅するのは現代の科学技術では不可能なレベルで、とても複雑な状態であると言えます。瓶の中は小宇宙のようなものです。
このことから、ワインや日本酒での瓶内熟成は、これらの複雑な分子同士が時間経過により起こす化学反応の総称であると考えることができると思います。
ウイスキーの瓶内熟成
ワインや日本酒などの醸造酒に対し、ウイスキーなどの蒸溜酒は、蒸溜を行うことでほとんどの生物由来の物質を除去した状態であると捉えることができます。また、2回以上高温で処理(蒸溜)を行っているため、その時点である程度の化学反応が加速され、時間経過による反応が非常に起こりにくい状態になっていると考えられます。
高温で反応が加速される身近な例として、圧力鍋を使うと調理が早くできるのは、圧力が上がると中の温度が高くなるためです。
さらに、アルコール度数が高いため、酵母や乳酸菌、雑菌がまったく繁殖できないというのも変化を起こしにくくしている要因です。
ウイスキーの時間経過での変化
次に、時間経過で起こり得るであろう変化を考えます。
まず、太陽光による影響を考えます。物質によっては紫外線が当たると分解してしまうものが多数あります。そのことを踏まえると、ウイスキーには樽由来の高分子が多く含まれているため、瓶を太陽光に長時間当ててしまうとこれらが分解して香味に変化を与えることがありそうです。
次に、開栓前しっかりと密封されている場合であれば、空気の出入りがないため先ほど説明したように瓶内の物質同士の反応はほとんど起きないと考えられますが、開栓後では酸化がおきたり、アルコール成分や揮発性の高い香味成分の蒸発などが起こり味に変化をもたらすと考えられます。
アルコールは水よりも蒸発しやすいため、密閉状態が保たれていない場合は時間経過でどんどんアルコール度数が低下していきます。この度数の低下を「まろやかになった」と感じて熟成したととらえることができそうです。逆に「コシが抜けた・枯れた」と感じて劣化と捉えられることもありそうです。
以上のことを踏まえると、
「完璧に密閉された状態で太陽光を避ければ、ほとんど変化をしない(熟成しない)」
と考えられます。これは、一般的にワインや日本酒で考えられている瓶内熟成とは一致しません。
しかし、単純に瓶詰後の変化を総じて瓶内熟成と捉えるのであれば、
「開栓後や太陽光に長時間さらせば、瓶内熟成し得る」
という認識もできるのかと、思いました。
熟成の定義を考える
先ほど、説明したように開栓後のアルコール度数の低下は人によっては熟成と言ったり、劣化と言ったりすることが起こりそうです。
ここから、熟成の定義を考える必要がありそうです。
これに関して私は、「発酵」と「腐敗」の定義の違いのようなものであると思います。発酵と腐敗の違いは、美味しいと感じれば「発酵」といい、まずいと感じれば「腐敗」という人間の主観による違いだけなんです。
美味しいと感じたなら「熟成」、まずいと感じたなら「劣化」というぐらい曖昧にとらえていいのではないでしょうか。そうすれば、「熟成」か「劣化」なのか論争などにはならず、「あぁ、この人はこういう変化を好むんだ(嫌うんだ)」と単純にその相手の(または自分の)趣味嗜好の認識になるのだと思います。
まとめると冒頭にも書きましたが、
時間経過の変化を「美味しくなった」と感じれば瓶内熟成しているといえる。逆に「まずくなった」と感じ入れば劣化したといえる。その変化をどちらととらえるかは人による。
つまり、人によっては瓶内熟成を一切感じない人もいるし、とても感じる人もいる。
ただし、完璧に密閉した状態で太陽光を避ければ瓶内熟成は起こらないであろう。
というのが私の考えたウイスキーの瓶内熟成です!
ぜひ、皆さんの考えも聞かせていただけたら嬉しいです。
それではまた、お会いしましょう!
乾杯!
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