樽詰め度数60%の魔法

ウイスキーの科学

ウイスキーは一般的に2回蒸溜、3回蒸溜、連続蒸溜のいずれかの方法で蒸溜され、度数約65~70%ほどになったものを、加水して60%程度までアルコール度数を下げてから樽詰めされます。

なぜ、わざわざ度数を下げてから樽詰めをするのか、それは経験的にその方がおいしいウイスキーができることを知っていたからなのでしょう。近年の研究で、なぜアルコール度数60%で樽詰めをすると美味しくなるのか、その一端が明らかになってきました。今回はそんな「アルコール度数60%の魔法」を紹介します。

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アルコール度数と熟成の関係

ここに、アルコール度数0%(水)、20%、40%、60%、90%それぞれの濃度の液に樽材のチップを漬けたときの着色度の変化のグラフを示します。グラフの上に行けば行くほど色が濃くなっていること、右に行けば行くほど時間が経っていることを表しています。

この結果から、アルコール度数60%のときが最も樽材からの着色のスピードが早いことがわかりました。
この理由は完全には明らかになっていませんが、アルコール度数60%のとき、樽の成分が最も溶出しやすいのだと考えられます。

実際、樽を構成するリグニンやタンニンといった高分子由来の様々な香味成分は、アルデヒド基やカルボキシル基といった親水性(水に溶けやすい)の官能基と、芳香族環などの疎水性(アルコールに溶けやすい)の官能基をあわせ持っていることが多いです。このように親水性と疎水性、両方の性質を持つ物質を両親媒性の物質といいますが、度数60%というアルコールと水のバランスが、これらの両親媒性の香味成分を溶けやすくする絶妙な状態なのではないだろうかと考えられます。

度数60%の状態よりも水が多いと、疎水性の部分が邪魔をしてしまい、アルコールが多いと、親水性の部分が邪魔をして溶け出しにくくなってしまうのではないでしょうか。

アルコール度数60%の魔法はまだあります。それは、「酸素の溶解度」と「密度の上昇」です。

酸素は熟成の工程で欠かせないものです。エステル化やアセタール化といった様々な香味成分の合成反応は原酒中に含まれる酸素を使って行われます。原酒にどれだけの酸素が溶けているかは溶解度を調べればわかるのですが、度数0%から40%までは酸素の溶解度は大きく変化せず、40%以降急激に溶解度が上がり、度数60%では40%に比べ約1.8倍も酸素が多く溶けていることがわかりました。

アルコール度数60%での酸素の溶解度の上昇は、エステル化やアセタール化といった様々な香味成分の合成を促進し、確実にウイスキーの熟成に寄与していると考えられます。

もう一つの魔法「密度の上昇」について説明します。水50mlとアルコール50mlを混ぜると、アルコール度数50%の液体が100mlできると思いきや、97~98ml程度にしかなりません。つまり、どちらかが100%の状態より、水とアルコールを混ぜたほうが密度が高くなったのです。これは、水分子だけの状態と、アルコール分子だけの状態より、水とアルコールが混ざった状態の方がよりコンパクトに分子が配置されるためだと考えられます。

様々なアルコール度数で密度の変化を調べたところ、度数約60%の時が最も密度が上昇することがわかりました。このことが、ウイスキーの熟成にどのように関与しているかはほとんど分かっていませんが、水とエタノールの密度が最も高い状態が、香味成分の溶解度に影響を与える可能性は十分にあります。

参考

『最新 ウイスキーの科学』p185~192 古賀邦正

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おわりに

以上、アルコール度数60%の魔法について紹介しました。

偶然にしては、特殊な状態が揃いすぎているとは思いませんか?度数60%が熟成に与える影響は、いまだにわかっていないことが多いので、今後の研究結果が楽しみですね。

それでは、またお会いしましょう!
乾杯!

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