今回は先日、2021年2月12日に日本洋酒酒造組合が制定した「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」について解説します。(原文はこちら)
こちらの基準は、2021年4月1日から施行されるそうです。
前提・経緯
日本、スコットランド、アメリカ、アイルランド、カナダの5大ウイスキー産国ではそれぞれ、「ウイスキー」と商品表示をするための法律があるのですが、日本以外の4カ国では「ウイスキーの品質を守る」目的で法律が決められているのに対し、日本の法律は「酒税法上の分類」という側面が大きく、「品質を守る」という点に関しては、あまり機能していませんでいた。
つまり、外国ではとても「ウイスキー」とは名乗れないような粗悪品が日本ではウイスキーとして売ることができてしまうという問題を抱えていました。
そこで、日本洋酒酒造組合は4年もの年月をかけ「国内外の消費者の適正な商品選択に資することで消費者の利益を保護し、事業者間の公正な競争を確保するとともに品質の向上に資することを目的とする」という考えのもと、新たなジャパニーズウイスキーの基準を作りました。
各国のウイスキーの定義・法律に関しては以下の記事にまとめているので参考にして下さい。
新しい基準の内容
もともとの日本におけるウイスキーの定義は以下のようなものでした。
・穀物および水を原料とする
・発芽させた穀物に含まれる酵素によって糖化させる
・アルコール度数95%未満で蒸溜
・上記の酒類が総量の10%未満にならない範囲で、アルコール、スピリッツ、香味料、色素を加えることができる。(ただし、白樺の炭で濾過したものは除く)
・蒸溜の際、ほかの物品の成分を浸出させたものは除く
この基準では、海外で生産された安い輸入酒や、醸造アルコールなどを混ぜてもウイスキーと名乗ることができてしまいます。
そこで、日本洋酒酒造組合はジャパニーズウイスキーと名乗るために、新たに以下のような基準を設けました。
・麦芽を必ず使用し、穀類、日本国内で採水された水を原料とする
・日本国内で糖化、発酵、蒸溜を行うこと
・アルコール度数95%未満で蒸溜すること
・容量700リットル以下の木製樽を使用し熟成させること
・日本国内で3年以上熟成させること
・日本国内で瓶詰し、その際のアルコール度数は40%以上であること
・色調の微調整のためのカラメルの使用を認める
考察
新しく設けられたジャパニーズウイスキーの定義を見て、自分なりの考察・感想を書きます。主に以下の3点について考えました。
・スコットランドの法律を参考にしたのだろう
・「微調整のためのカラメル」の”微調整”の基準は?
・これで、本当に品質が守られるのか?
順番に説明します。
外国の法律を参考にしたのだろう
新しく設けられたジャパニーズウイスキーの定義は、「3年以上の熟成」「40%以上で瓶詰」などは特に、スコットランドのウイスキーに関する法律と一致するので、スコットランド参考にしているのだなと、いうことがわかります。
実際、日本のウイスキーはスコットランドから伝わったため、伝統を守るという思いがあるのかもしれません。
一つ、懸念としては「3年」という期間が適切なのかということです。スコットランドは全土が涼しい気候なのに対して、日本ではとても暑い地域から、涼しい地域まで様々あります。
一般に涼しい気候では熟成がゆっくり進み、暑い地域では熟成が早く進むと考えられているため、日本では暑い地域で熟成している蒸溜所のために、2年でもよかったのではないかなと思いました。
「微調整のためのカラメル」の”微調整”の基準は?
一番ひっかかったのは、これです。「微調整」といのはとても曖昧な表現だなと思いました。
最初のロットはわざと色の濃い原酒を選び、それ以降は比較的安上がりな熟成年数の短い(色の薄い)原酒を使って、カラメルで色調整することで、熟成年数が長そうに見せるということが起きてしまうのではないかと思いました。
具体的に着色剤を指定して、1Lあたり着色剤は何グラム以下という基準の方が、そういったことを防げるのではないかと思いました。
これで、本当に品質が守られるのか?
新しくできた基準を満たせば、かなりの品質の向上が見込まれると思います。ただ、その一方で「ジャパニーズウイスキー」というブランド力を使いたいために、「基準を満たしさせすればいい」という考えのもと製造が行われてしまうのではないか、そして明確な基準を満たしているのだからと安心して、質の低いものを「これがジャパニーズウイスキーなんだ」と思ってしまうのではないかと危惧しています。
これに関しては消費者側が、どういった思いで作っているのか、どういったこだわりがあるのかを知ったうえで買うようになったらいいのかなと思いました。
粗悪なものを作っていたら、長い目で見たらそういったものは淘汰されていくと思うのですが、そういった市場の仕組みが正常に機能するようにウイスキー好きみんなで考えて、より良いジャパニーズウイスキーを目指していきたいですね。
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