【発酵の基礎】糖からエタノールへ、偉大な酵母のちから

ウイスキーの科学

ウイスキー、ビール、ワイン、生ハム、キムチ、ヨーグルト
身の回りには発酵を使った食品が多数あります。

ウイスキーメディアですので、今回は特に「エタノール発酵って具体的に何?」という方に向けて基礎的な内容を紹介します。

この記事のポイント

・人間にとって得なのが発酵、害なのが腐敗。
・酵母は糖分を分解してエタノールを作っている。
・人の筋肉が乳酸を作るのは、酵母がエタノールを作るのと同じ仕組み。

発酵と腐敗の違い

発酵も腐敗も微生物による食品の分解反応のことを指します。
そして、その変化が人間にとって有益なものを発酵、害になるものを腐敗と呼んでいます。

つまり、人間の主観による違いなだけで、科学的な点に関しては違いはないのです。

しいて言えば乳酸やアルコール、アミノ酸などを生成するものは発酵と呼ばれやすく、硫黄やアンモニアなどを生成するものを腐敗と呼びやすいという傾向はありますが、必ずしもこれに当てはまるわけではありません。

食べてみて、飲んでみておいしければ発酵なのです。

エタノール発酵の条件

エタノール発酵(アルコール発酵)は微生物のなかでも主に酵母によって行われるエタノールを生成する発酵です。

酵母がエタノールを作るためにはいくつか条件があります。その条件とは
・単糖があること
・一定の温度の範囲内であること
・嫌気的な環境であること

順番に解説します。

単糖があること

酵母はグルコースという単糖を吸収・分解することでアルコールを生成します。

少し専門的な話になりますが、糖は単糖と多糖に分けることができます。
料理に使う白い砂糖、黒蜜など舐めてみて甘いものは単糖や二糖で、パンやお米などよく噛んで食べることで徐々に甘味を感じるものは多糖に分類されます。科学的には多糖は単糖が何百個もつながった糖の塊のようなものでデンプンがその代表です。

酵母は単糖や二糖のような小さい糖しか吸収することができません。ですから、デンプンがいくらあっても、酵母はアルコールを作ることができないのです。

そこで、ウイスキーなどのお酒づくりの場では「糖化」と呼ばれる、多糖を小さな単糖や二糖に分解する工程を必要とします。
つまり、単糖がないと酵母はエタノール発酵を行えません

ちなみに、酵母は多糖を分解することはできませんが、二糖を二つの単糖に分解することはでるので、ウイスキーづくりの場では麦芽の中のデンプンを麦芽糖と呼ばれる二糖まで分解しています

一定の温度の範囲内であること

酵母も我々と同じ生物です。
なので、温度が低すぎたり高すぎたりすると死んでしまいます。
また、人間が20℃前後を心地よく感じるように、酵母にも活動が活発になる温度(至適温度)があります。

その温度は酵母の種類によって異なるのですが、ウイスキーによく使われる蒸溜酒用酵母では約28℃前後が最もアルコール発酵が活発になる温度です。

至適温度よりも高すぎたり、低すぎたりすると酵母はアルコールを作らなくなってしまいます。

嫌気的な環境であること

酸素の多い環境を「好気的」といい、逆に酸素の少ない環境を「嫌気的」な環境といいます。

酵母は普段は我々人間と同じように酸素を使って生活しています。
人間は酸素が無くなると死んでしまいますが、酵母は酸素が無くなると次は糖分を栄養にして生きることができます。

このとき、糖分から栄養を摂った後に残るのがアルコールです。
つまり、エタノールは酵母が生きるうえで排泄したうんちみたいなもんです(笑)

酸素が十分にある環境だと、酵母は酸素を使うようにしているためアルコールは作られません。
なので、エタノール発酵には嫌気的な条件でなくてはいけないのです。

お酒づくりの場では、発酵初期の段階では好気的な環境により酵母が次々に増殖していきます。このときにはまだ、エタノール発酵はしていません。十分に酵母が増殖すると、増殖しすぎたせいで酸素をほとんど使い果たしてしまい嫌気的な環境になります。そこで、今度は糖分を使いエタノール発酵を始めるという仕組みで、エタノールを作っています。

筋肉と発酵の共通点

これは雑学のようなものですが、酵母がエタノールを作る仕組みと同様のものが人間にも備わっています。

それが、筋肉が乳酸を作る仕組みです。

筋トレやランニングをすると筋肉に乳酸が溜まるというのを聞いたことがあると思います。
これは、軽い運動であれば筋肉は酸素をつかって運動するため乳酸はほとんど生成しないのですが、負荷の強い運動をすると筋肉周辺の酸素を使い果たしてしまい嫌気的な環境になります。そうなると、次に筋肉は糖を使いエネルギーを得るようになります。その糖をエネルギーにして最後に残るのが乳酸なのです。

この仕組みは「解糖系」と呼ばれる細胞の中で行われている話です。
解糖系は酵母をはじめ哺乳類にまで広く共通した生物の仕組みです。

この話はかなり専門的な話になってしまうので、興味のある方はご自身で調べてみてください。

終わりに

以上、エタノール発酵について紹介しました。

酵母を含む微生物、というものはパスツールによって1800年代に発見されました。これは紀元前からつくられてきたお酒の歴史に比べると、とても最近の出来事です。そう考えると、我々はウイスキーについて、まだまだ知らないことが多そうですね!

今後の科学の発展により、どのようなことが解き明かされるのか楽しみです!

では、またお会いしましょう!

乾杯

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