【熟成の科学】ウイスキーは樽を飲んでいる!

ウイスキーの科学

ウイスキーの樽熟成の過程で一番わかりやすい変化は「色」です。蒸溜したてのニューポットは無色透明の液体ですが、樽の中で熟成するにつれて「琥珀色」に変化していきます。これは、樽の成分がウイスキーのなかに溶出していったためです。

色以外にも、樽の成分が溶けだし香りや味に大きく影響を与えます。まさに「樽を飲んでいる」のです。

今回は、樽熟成の過程でウイスキーに溶出する樽の成分を紹介します。

樽からどれくらい溶出するのか

12年~18年熟成したシングルモルトでは樽材由来の不揮発性成分が500~3500ppmである事がわかっています。これは、例えば480リットルの樽に400リットルの原酒が入っていた場合、そのうち1.4~2キロ近くが溶けだしている計算になります。

また、樽の内側を焦がすチャーリングをすると溶出する成分が多くなることもわかっているため、チャーリングしてすぐに樽詰めするバーボンや、チャーリングしなおしてから樽詰めを行う場合などではこれよりも多くの樽の成分が溶け出しているのではないかと予想されます。

溶出する成分

樽から溶け出す成分は、樽にもともと存在する成分がほぼそのまま溶け出すパターンと、樽を構成する高分子がエタノールや時間経過により分解・反応して溶け出すパターンがあります。

そのまま溶け出すパータンで主なものは、コハク酸と酢酸、β-シトステロールなどが挙げられます。コハク酸はアルコール発酵の副産物でもあり、ワインやビールに塩味・苦味・酸味・うま味を与えることで知られる物質ですが、不揮発性物資であるため、蒸溜の過程で取り除かれてしまいます。しかし、樽熟成の過程で樽から多量に溶けだすため、ウイスキーの味に大きく寄与する物質です。また、コハク酸はカルボキシル基を2つ持っているため、エタノールと反応して複雑でフルーティーなエステル香が生成されると考えられます。

酢酸はエタノールの酸化によっても生成する物質ですが、樽からの溶出の方が多いことがわかっています。酢酸もコハク酸同様に、カルボキシル基を持っているため、エステル香につながる物質です。
β-シトステロールはオーク材の細胞膜を構成する成分でオイリーな香味を与えてくれます。

また、内側を焼き付ける(チャーリング)工程で、木材の高分子が分解され、アーモンドのような香りのするフルフラールや、バニラの香りがするバニリンといった物質も溶け出してきます。

エタノールと時間経過により分解・反応して溶け出すパターンで主なものは、バニリン、クェルクスラクトン、ポリフェノール酸などが挙げられます。バニリンは先ほど説明したようにチャーリングによって生成する物質でもあるのですが、チャーリングよりもエタノールによるリグニンの分解によって生まれるほうが量が多いことがわかっています。

クェルクスラクトンは、タンニンの分解によって生成するココナッツのような香りがする物質です。クェルクスラクトンはオーク材特有のラクトン類で、オークの中でもウイスキー樽に用いる落葉性のオークには存在しますが、常緑性のオークには存在しないことがわかっています。そのため、別名オークラクトンとも呼ばれています。

他にタンニンの分解によって生じるのがポリフェノール酸です。ポリフェノール酸の中でもウイスキーにおいて主要なのが、ガーリック酸、タンニン酸、エラグ酸の3つです。これらのポリフェノール酸は渋みなどの味に影響を与えるとともに、抗酸化作用によるウイスキーの品質向上や、不快な香りのする硫化合物の減少に寄与しています。

参考

・『ウイスキーの科学』p150-175 古賀邦正
酒類の熟成についての一考察(1)-ウイスキーの熟成機構を参考にして- 古賀邦正
『ウイスキーのおいしさ』最田優
『グレーン・ウイスキーの樽貯蔵について』辻謙次

終わりに

以上、樽から溶け出す物質がウイスキーの香味に与える影響について紹介しました。

樽熟成はまだまだ未解明の部分が多い過程ですが、近年の科学によって少しずつ分かってきました。今後の進展が楽しみです。

それでは、またお会いしましょう!
乾杯!

コメント

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