今回は「モルトの香水」とも称されるスプリングバンク蒸溜所を紹介します。
近年では珍しい、大麦の発芽工程(モルティング)からすべて自分達で行っており、また作業の大部分を人の手作業で行うという、非常に手間ひまをかけたウイスキーづくりを行っている蒸溜所です。
この記事が少しでも何かの役に立てば嬉しいです。
スプリングバンク蒸溜所はどこにあるの?
スプリングバンク蒸溜所は、スコットランドにあるキンタイア半島の南端、キャンベルタウンにあります。
キャンベルタウンは17世紀と18世紀の大部分をウイスキーの密輸センターとして使用されていた歴史があります。当時は30以上もの蒸溜所があったのですが、現在では3つにまで減ってしまいました。3つ蒸溜所「スプリングバンク」「グレンガイル」「グレンスコシア」のうち、「スプリングバンク」と「グレンガイル」蒸溜所はJ&A Mitchell and Companyが所有しています。
キャンベルタウンの年間平均気温は以下のグラフの通りで、夏でも平均最高気温が17℃、冬の平均最低気温は4℃と日本に比べ夏と冬の気温差が少ない地域です。
スプリングバンク蒸溜所の歴史について教えて!
1591年、キャンベルタウンでウイスキーが作られていたことが文献に記されているもっとも古い記録です。
1660年、スプリングバンクの創設者ミッチェル家がキャンベルタウンに入植者として移り住みました。このとき、すでに一部の家族はウイスキーの原料である大麦麦芽を生産する”モルトスター”でした。
1814年、このときキャンベルタウンでは22の蒸溜所が稼働していました。(現在は3つ)
1828年、アーチボルド・ミッチェルがスプリングバンク蒸溜所を建設しました。このときスプリングバンクはキャンベルタウンで蒸溜所として14番目に認可されました。
1900年代、時代の需要変化に対応して、それまで泥炭(ピート)を使用してモルトを乾燥させていたところを、それほど激しくピートを使用しない、比較的軽いウイスキーづくりに変更しました。
1920年代、キャンベルタウン蒸溜所のいくつかは、ウイスキーの需要に追いつくために手抜きを始め、その結果、ブレンダーはキャンベルタウンに背を向け、一貫してより良いモルトを他の場所で探すようになりました。これらの蒸溜所は徐々に閉鎖し始めました。
1973年、アイラ島のウイスキーに特徴的なピートを効かせたウイスキーであるロングロウの生産を開始し、アイラスタイルのウイスキーがキャンベルタウンでも生産できることを証明しました。
1997年、スプリングバンク蒸溜所の最も新しいスタイルである「ヘーゼルバーン」が蒸溜され始めました。
現在、スプリングバンクはキャンベルタウンで操業している3つの蒸留所のうちのひとつであり、スコットランドで最も古い独立した家族経営の蒸留所です。
製法の特徴は?
スプリングバンク蒸溜所は大麦の発芽工程(モルティング)からすべて自分達で行っている自己完結型の数少ない蒸溜所です。多くの作業を機械でなく手作業で丁寧に行っていることも特筆すべき点です。
原料について
スプリングバンク蒸溜所は、大麦を原料に使用しています。ウイスキーづくりでは大麦に含まれる糖化酵素を活性化させるために大麦を発芽させる必要があります。多くの蒸溜所が発芽の工程を他社に任せているのに対し、スプリングバンク蒸溜所はフロアモルティングと呼ばれる方法で、自分達の手で発芽させています。
未発芽の大麦を水に浸し、最大3日間水を吸わせます。次にモルティングフロアと呼ばれる床一面に大麦を均一に手作業で敷き、定期的に混ぜまわします。定期的に混ぜることで大麦が均一に発芽していきます。
発芽が終わると、次は乾燥の工程です。発芽後そのままでは大麦自身の成長のためにデンプンを消費し始めてしまいます。デンプンはアルコール発酵に必要な成分のため、乾燥させることでデンプンの消費を防ぎます。
また、スプリングバンク蒸溜所は「スプリングバンク」「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」と3つの銘柄のウイスキーを生産しています。それぞれの銘柄の特徴に合わせて、スモーキーな香りをつけたい場合は泥炭(ピート)を燃やし、つけたくない場合は熱風乾燥を、またそれら二つを組み合わせて目的の大麦麦芽を作り分けています。
乾燥工程は30~48時間かけて行われます。
粉砕機について
乾燥が終わると、次は粉砕機に運ばれグリストと呼ばれる粉末に粉砕されます。
粉砕機は1940年のPorteous millと呼ばれるものを使用しています。
大麦麦芽を粉砕して得られるグリストは粒の大きさで3段階に分類されます。一般的に粗挽きのハスクが15%,中挽きのグリッツが80%,細挽きのフラワーが5%という比率が糖化工程において最も効率が良いと考えられています。
糖化について
糖化は1世紀以上前からある、容量約4トンの鋳鉄製の糖化槽(マッシュタン)で行われます。
グリストとお湯を混ぜ、液体中にデンプンなどの糖質を溶かし出し、糖化酵素によって糖化させます。糖化槽の中には撹拌機があり液体をかき混ぜることで、効率よく糖化を行います。
発酵について
糖化を終えると、次は発酵です。
スプリングバンク蒸溜所では容量約2万リットルの木製の発酵槽(ウォッシュバック)を5基使用しています。ウォッシュバックに移された麦汁は酵母を添加され、最大110時間(約4日半)発酵されます。
また使用されている酵母は英国で蒸溜業界向けに特別に製造された圧搾酵母を使用しています。
圧搾酵母は、培養液で培養している状態の「液状酵母」を遠心などで脱水したものです。さらさらになるまで乾燥させる乾燥酵母とは違い、生酵母の一つです。
蒸溜について
スプリングバンク蒸溜所は3つのポットスチルを使用して蒸溜しています。
写真の左から順に「ウォッシュスチル」「ローワインスチル1」「ローワインスチル2」です。ウォシュスチルの容量は約1万リットルで、ローワインスチルの容量はどちらも約6000リットルあります。
これらのポットスチルは多くの蒸溜所とは異なり、生の炎で直接熱されるのが特徴です。
発酵を終えた発酵液はまず一番大きいウォッシュスチルによって蒸溜されます。このときの蒸溜液をローワインと呼びます。ローワインのアルコール度数は20~25%です。
この後の蒸溜工程は「スプリングバンク」「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」のどの銘柄を作るかによって異なります。
まず最初に「ロングロウ」の蒸溜法について解説します。ロングロウは2回蒸溜です。ウォッシュスチルによって蒸留されたローワインをローワインスチル1を使って2回目の蒸溜をします。2回蒸溜後のアルコール度数は約68%です。この蒸溜液を63.5%に調製してから樽詰めされます。
ロングロウではローワインスチル2は使われません。
次に「テーゼルバーン」は3回蒸溜です。ウォッシュスチルによって蒸溜されたローワインをローワインスチル1を使って2回目の蒸溜を、つぎにローワインスチル2を使って3回目の蒸溜を行います。3回蒸溜後の蒸溜液はアルコール度数74~76%です。これをアルコール度数63.5%に調製後、樽詰めされます。
最後に「スプリングバンク」は2.5回蒸溜です。ローワインスチル1によって蒸溜した2回蒸溜の液とウォッシュスチルによって蒸溜された1回蒸溜の液を8:2で混ぜてから、ローワインスチル2で蒸溜を行います。
そのため、全体の8割の液は3回蒸溜され、2割は2回蒸溜されることになるので、2.5回蒸溜と言われています。
蒸溜後のアルコール度数は71~72%です。これを63.5%に調製してから樽詰めします。
樽詰めと熟成について
バーボン樽やシェリー樽など専門家が厳選した樽に蒸溜液は詰められます。
詰められた樽は暗く湿った倉庫に運ばれ、最低3年間熟成されます。この3年とはスコットランドの法律でウイスキーと名乗れる最低限のラインです。(日本には熟成年数の規定はありません)
おすすめ動画
以下にスプリングバンク蒸溜所の紹介をしている、おすすめの動画を貼っておきます。
動画の内容は英語なのですが、ここまでの記事を読まれた方なら英語が苦手な方でも十分楽しめる内容になっていると思います。なかなか行くことが難しいスプリングバンク蒸留所の疑似工場見学体験を楽しんでいただけたら幸いです。
おすすめ動画1:Making Whisky in Scotland at Springbank Distillery(YouTube)
おすすめ動画2:Whisky Tour: Springbank Distillery(YouTube)
スプリングバンク蒸溜所はどんなウイスキーを出しているの?
スプリングバンク蒸溜所は3つの銘柄のウイスキーを作っています
「スプリングバンク」「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」
それぞれ違う特徴・コンセプトがあります。
以下、商品の紹介文・テイスティングノートなどはスプリングバンク蒸溜所のホームページより翻訳しています。
スプリングバンク
「スプリングバンク」は1828年の創業時から生産している銘柄で、軽くピートした大麦の使用と、2.5回蒸溜という独特な蒸溜方法により複雑でフルボディのウイスキーに仕上がっています。
現在、「スプリングバンク」は10年、12年、15年、18年、21年を定期的に生産しています。
スプリングバンク10年
スプリングバンク10年は、スプリングバンクシリーズの特徴を感じるための導入として完璧です。バーボン樽とシェリー樽熟成の組み合わせが絶妙で、最初の一口から最後の余韻まで完璧なバランスです。
スペック
熟成年数:10年
度数:46%
樽:バーボン樽、シェリー樽
テイスティングノート
香り | 果樹園の洋ナシに微かにピート、バニラ、モルトが香る。 |
味 | モルト、オーク、スパイス、ナツメグ、シナモン、バニラエッセンス。 |
余韻 | 甘く、塩辛い味が残る。 |
スプリングバンク12年
スプリングバンク12年は常にカスクストレングス(加水せず樽から出したままの度数)で商品化されます。滑らかなバターのようなボディと豊かなフルーティーな味わいが素晴らしいバランスです。 水を一滴加えると、ミルクチョコレートとバニラの香りが広がります。
スペックは年により異なる。
2017年発売のものはアルコール度数54.2%で発売されました。
2017年発売のスプリングバンク12年のテイスティングノート
香り | 松や栗の木が生い茂る秋の森を散歩した後、キャンベルタウンのモルトのヨウ素に戻り、繊細な泥炭の香りで終わります。 |
味 | バニラとペッパーのフレーバーを忘れずに、トーストの柑橘系マーマレードとキャラメリゼしたトーストしたマシュマロのバランスが取れた、ゴージャスな味わい。 肉付きの良いドラムをなめる唇です。 |
余韻 | 塩辛いエッジのある、おいしくて粘り気のある滑らかな液体。 濃厚なハニーソースでマリネし、オーブンでじっくり焼き上げたハムの思い出をよみがえらせます。 |
スプリングバンク15年
キンタイア半島沖で嵐が集まるように、スプリングバンク15年は暗くて不吉ですが、とても味わい深いです。 夕食後やお気に入りの葉巻と一緒に楽しむのが一番です。これが真のクラシックです。
スペック
熟成年数:15年
度数:46%
樽:バーボン樽、シェリー樽
香り | デメララシュガー、ダークチョコレート、クリスマスケーキ、アーモンド、タフィー、オーク。 |
味 | クリーミー、レーズン、ダークチョコレート、イチジク、マジパン、ブラジルナッツ、バニラ。 |
余韻 | オークとシェリーの香りが微かな革の香りと持続し、混ざり合っていく。 |
スプリングバンク18年
錆びた銅色のスプリングバンク18年は権威に満ちており、真にクラシックでフルボディです。 甘美な香りを持つこのウイスキーは、その独特の味わいを発見するとき、あなたを誘惑し魅了します。
香り | レモンメレンゲパイ、洋ナシの皮、オリーブオイル、アーモンド、ダイジェスティブビスケット。 典型的なキンタイア沿岸の輝きが前面に出てきます。 |
味 | 全体的に乾燥バナナ、コクナッツの削りくず、バタースコッチが背景にいる。際立って、キャロットケーキ、糖蜜、絞りたてのライムが舌を包み込みます。 |
余韻 | 非常にデリケートです。 甘草、ジンジャーブレッド、マダガスカルバニラ。 続いてミント、トリニティクリーム、バニラミルクセーキ。 |
スプリングバンク21年
その温かみのある黄金の輝きでスプリングバンク21年は魅力的でクリーミーで、信じられないほどの複雑さを提供します。 このシングルモルトで明らかになった海の影響は、キャンベルタウンの家への旅に連れて行ってくれます。
香り | クリーミーな喜び。 トフィーとシリアルのノートには、摘みたてのイチゴと熟したスイカがちりばめられています。 |
味 | ドライでクリーミーな油性で、丈夫でしっかりしています。 砂糖入りのアーモンドと少量のシナモンが多く含まれています。 |
余韻 | クリーミーで長さが進化し、口を覆い、最終的にピートの起源を放ちます。 |
ロングロウ
「ロングロウ」は1973年から生産を開始したシリーズです。これはアイラスタイルのシングルモルトがキャンベルタウンでも生産できることを証明するために実験的に行われたものです。ロングロウは強くピートを効かせたスモーキーなウイスキーで、ピーテッド(年数表記なし)、レッド、18年の3つの種類を生産しています。
また、「ロングロウ」という名前はかつてキャンベルタウンにあった蒸溜所の名前から来ています。
ロングロウ ピーテッド
ロングロウピーテッドは、ピートの効いたウイスキーを楽しむ人々に、窯からの煙の大波のような感覚が伝わる、スモーキーな香りが長く続く味を楽しむ機会を提供します。
香り | とてもクリーミーなバニラカスタード。 煙が発生し、トーストしたマシュマロ、ハーブ、豊富な果物が時間の経過とともに現れます。 |
味 | 信じられないほどバランスが取れており、ほんのり薬味のあるリッチでクリーミーな味わいです。 スモーキーさは常に存在し、波のように舌を洗い流します。 |
余韻 | やさしい煙が残ります。 |
ロングロウ レッド
常にカスクストレングスで瓶詰めされているロングロウレッドは、毎年少量でリリースされ、毎年異なるタイプの赤ワイン樽で熟成させれています。
年によって熟成年数、度数、使用する樽などが異なるため、テイスティングノートは割愛します。
ロングロウ18年
暗くて少し神秘的な、ロングロウ18年は複雑な香りを持ち、ダンネージ倉庫を思わせるピートな香りを発します。
香り | 複雑な香り:最初は甘いフルーツ、柑橘類、桃、オレンジの皮、次に穏やかな土のようなピートの香りが現れます。 |
味 | リッチでバランスが取れており、 ダークチョコレート、クリーミーなコーヒー、ジンジャーブレッドが前面に出て、ルバーブとバニラカスタードが続きます。 |
余韻 | 長くて甘い、典型的なロングロウのピートスモークの香りと、より多くのチョコレートといくつかのドライフルーツが組み合わされています。 |
ヘーゼルバーン
「ヘーゼルバーン」は1997年から生産が開始されたシリーズです。現在ある3シリーズのなかで一番新しくできたシリーズとなります。原料の大麦にはピートを効かせず、熱風乾燥のみで乾燥させ、スコッチでは珍しい3回蒸溜を行うことで、軽くフルーティ―なウイスキーに仕上がっています。ヘーゼルバーンは10年、シェリーウッドの2種類の商品があります。
また、ロングロウと同じく、「ヘーゼルバーン」という名前はかつてキャンベルタウンにあった蒸溜所の名前から来ています。
ヘーゼルバーン10年
フレーバーが豊富なヘーゼルバーン10年は、歓喜な香りとフレーバーで溢れています。
香り | 洋ナシの煮込みと焼きりんごの後に、蜂の巣とファッジ(硬いキャラメルのようなお菓子)の香りが続きます。 |
味 | バニラとハチミツのフレーバーを備えた可愛くてリッチなウイスキーであるリコリスは、さわやかな熱意が続きます。 |
余韻 | 油っぽくて歯ごたえのある上品なミルクチョコレートクリーム仕上げ。 |
ヘーゼルバーン シェリーウッド
常にカスクストレングスで瓶詰めされているヘーゼルバーンシェリーウッドは、さまざまな種類のシェリー樽で熟成された後、毎年少量でリリースされます。
年によってスペックが異なるためテイスティングノートは割愛します。
終わりに
以上、スプリングバンク蒸溜所特集でした!
いかがだったでしょうか。スプリングバンクはタイプのまったく異なる3種類のウイスキーを作っているので、飲み比べて自分の好みを探すのも楽しいのではないかと思います。
この記事が少しでも役に立てたなら嬉しいです!
また、お会いしましょう!
乾杯!
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